FLOATING JAMの『元祖・浮いたり、沈んだり。』

FLOATING JAM & FJスズキ の 『日常と非日常』、旧ブログ保存版

まあ、分かってくれとは言わないが・・・、明智君。 【第一章 (その一)】

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 スズキさんはある小さなまちの小さな会社でお仕事をしています。きょうも朝から
事務所の電子計算機の光る画面にむかっているのです。
 電子計算機というのは、かの洪国のフオン・ノイマン博士によって発明された、と
てもべんりな機械のことです。人間の脳みその何万倍、何十万倍というおどろくべき
はやさでぼうだいな計算をこなすのです。電子計算機のおかげで、これまでまる一日
かかっていたお仕事も半日もあればじゅうぶん。ひとびとは、この発明にとても感謝
をしているのでした。
 でも、スズキさんはどうもしゃく然としないようです。電子計算機のおかげでお仕
事が半分の時間ですむのなら、のこりの半分の時間はゆったりとお茶をのんだり、楽
しくおしゃべりをしてすごしてもよいはずではありませんか。
 なのに、現実はちがっています。それは、のこり半分の時間も休まずにはたらいて、
他人の二ばいのお金をかせごうとするひとがいるからです。
 もっとお金がほしいひとがいっしょうけんめいはたらいてお金をかせぐのは、けっ
してわるいことではありません。でも、みんながみんな二ばいはたらくようになると、
これまでとおなじだけはたらいただけでは、

「おまえは、なまけものだ」

といわれて、社会のしくみからはじきだされてしまうのです。

 そんなもやもやとした気もちを胸にかかえなから、スズキさんは黙々とお仕事をこ
なしてゆきます。


 ちょっと調べものがしたくなったスズキさんは、電子計算機をグーグルに接続しま
した。
 いまや、電子計算機は世界中にあみの目のようにはりめぐらされた電線でおたがい
につながれており、あっという間に世界じゅうのあらゆる情報をもち帰って来るので
す。まるで自分自身が世界中のことをなんでも知っているかのごとき錯覚をおこさず
にはいられません。
 グーグルというのは、電話の交換台のようなものを想像するとわかりやすいかもし
れません。無限にある世界じゅうの情報のなかから、自分がこれと指摘したものを選
別してもち帰ってくれるのです。その情報の選別には、これまたどこかでだれかがお
金をもうけるためのしくみが組み込まれていることをスズキさんはうすうす感づいて
はいるのですが、あまり気にしないことにしています。とりあえず、べんりだからで
す。


 さて、そのグーグルに接続した電子計算機の画面を見つめていたスズキさんは、思
わず、あっと声をあげそうになりました。

「もしや、ここにえがかれているのは小林少年ではないかしらん」

 まさかそんなはずはないと目をこらしてみると、はたして、それはあの小林少年に
まちがいないのでした。

 小林少年とは、いわずと知れた希代の名探偵明智小五郎の右腕にして、少年探偵団
の団長小林芳雄そのひとであります。中学生とも思われぬ勇敢かつ機敏な行動力で、
たびたび怪人二十面相を追いつめ、世間の耳目を集めてやまない天才少年です。

 グーグルの表題にかかげられたその画には、正義感あふれる力強いまなざしとまだ
いくぶんあどけなさののこる赤いほほの小林少年が虚空をみつめる姿がえがかれてい
るのです。遠くには、いままさに洋館の屋根からなかまのあやつるヘリコプターで飛
び立たんとしている怪人二十面相らしき黒いかげ。さらには、その悪党どもを追い落
とさんとするがごとく闇夜につきささる、探照灯の放つ光の柱。
 すくなくとも、スズキさんと同世代からうえのおとなたちにはおなじみでしょう。
それは、ポプラ社の『少年探偵団シリーズ』のハードカバーの表紙画を模した、なん
ともなつかしいかおりのするパロディーなのでした。


(つづく。)