FLOATING JAMの『元祖・浮いたり、沈んだり。』

FLOATING JAM & FJスズキ の 『日常と非日常』、旧ブログ保存版

まあ、分かってくれとは言わないが・・・、明智君。 【第一章 (その二)】

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 スズキさんは、はじめてこの少年探偵団シリーズにふれたころのことを、なつかし
く思いだすのです。
 それは小学二年生のときでした。ほんとうは三年生にならないと学校の図書室はつ
かえないきまりでしたが、とくべつな授業で図書室の本をかりて読むきかいがあった
のです。かぞえきれないほどたくさんの本の中でも、ずらりとならんだ全四十六巻ほ
どもあるそのシリーズがスズキさんの目にとまりました。
 よくわからないながらもスズキさんがさいしょに手にしたのは、『地獄の道化師』
といういかにもおどろおどろしい題の一冊でした。このころのスズキさんは「猟奇」
などということばを知るよしもなかったのですが、石膏像にぬり込められた死体から
流れでる血の描写などに幼い心をおどらせたのでした。
 また、そのおなじ本のなかにおさめられていた『二銭銅貨』という短編は、なぞと
きのおもしろさという、推理小説の醍醐味にふれるきっかけにもなったのでした。

 そのご、小学三年生になって自由に図書室の本が読めるようになると、級友たちと
だれがいちばんはじめに全巻を制はするかなどと、競うようにこのシリーズを読みあ
さったのです。
 級友たちのあいだでは『影男』がたいへんな人気でしたが、スズキさんが特に好き
だったのは、『宇宙怪人』や『夜行怪人』『透明怪人』といったすこしSFてきなトリ
ックをふくんだ怪人ものや、『赤い部屋』といった猟奇的ななにやらあやしいおとな
のかおりのただよう短編作品なのでした。


 それにしても、そもそもなぜきょうの表題画が小林少年なのでしょうか。
 スズキさんは、ねずみ形の指示器をあやつり、画面上の矢印をこの表題画のうえに
かさねてみました。するとどうでしょう。そこにあらわれたのは、

江戸川乱歩の誕生日」

という文字です。
 そう、きょう十月二十一日は、少年探偵団シリーズの生みの親、江戸川乱歩先生の
お誕生日だったのです。
 しかし、これはいったいどうしたことでしょう。
 たしかに、グーグルの表題画は、お正月やクリスマスといった世界的にもだれもが
お祝いしたり記念したりする行事のさいにとくべつな画にさしかえられることは、ス
ズキさんもたびたび目げきしていたのです。江戸川乱歩先生のお誕生日が特別な日で
あることはだれもが認めるところでありましょうが、こんなかたちでお祝いされてい
るというのもなんともふしぎなおはなしではありませんか。


 スズキさんはぼう然と電子計算機の画面をながめつづけていましたが、はっとわれ
にかえりました。もしもこんなすがたを会社の上司にみられてしまったら、

「おまえは、なまけものだ」

といわれて社会のしくみからはじきだされてしまうからです。

 なにかきつねにつままれたようなここちのままで、スズキさんはお仕事をつづける
ふりをしながら遠いむかしの思い出をかみしめるのでした。


(つづく。)